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2008年2月17日 (日)

芥川賞作家川上末映子さん

芥川賞作家、川上末映子さんの小説「乳と卵」を読もうと文芸春秋3月号を買ったら、作品と一緒に“受賞者インタビュー”が掲載されていたので読んだ。1976年生まれの31歳という若さながら、その生き方や文学に対する真剣な考え方に感心させられた。

大阪生まれの彼女は人生経験が豊富だ。高校卒後、書店員、歯科助手、クラブホステスなど様々な職業を経験後、歌手を経て、作家デビューした。

本が一冊もなかった家に生まれたので、最初は国語の教科書を精読。そこで興味のある作家ができると、学校の図書館に行き、他の作品を貪るように読み、読書量を増やしていったという。

大阪市立工芸高校でデザインを学ぶ。卒業後、今はなくなった心斎橋の書店で昼間は書店員、夜は北新地のクラブホステスとして働くが、同時に日大文理学部の通信教育で哲学を勉強をし、また、バンド活動もしていたという。

クラブホステスといて働いたのは、弟さんの学資を出すためだという(弟さんは全国レベルの有能なラクビー選手だった)。

「姉が働いて弟の学資を出す。20年前ならいざ知らず、最近では珍しい話ですね」という文芸春秋記者の質問に答え、彼女が、この若さで、次のように答えているのが、じんと胸にせまる。

「世の中、自分のためだけに働いている人は少ないですよね。みなさん、奥さんとか子供さんとか、自分以外の誰かのために働いている。それが私の場合、たまたま弟で、たまたま年齢的に早かっただけ。男やし、面と向かってありがとうとは言わへんけど、弟が感謝してくれているのは分っています」と

通信教育で哲学を勉強をしたことが、彼女の文学の現在の姿を築きあげたらしい。
俗っぽい書店員やホステスの仕事をしながら、哲学という崇高な観念に没頭できた理由として、彼女は次のように述べている。

「人は、誰しも当然のこととして、脳の中の意識と、具体的な存在である体という全く別物を抱えながらやってのけるわけで、そこに特別なボーダー(境界)は感じませんね。哲学的な思索をしていてもお腹は減るよね、ということですかね」と、いとも軽妙に答えているのが面白い。

因みに、今回の受賞作品「乳と卵」は樋口一葉へのオマージュだということだ。「たけくらべ」との共通性が多く見られるという。

   注:オマージュとはフランス語で、尊敬する作家や作品に影響を受けて、似たような作品を
      創作することを言う。


この受賞者インタビューを読んで、文学を批評する能力がない私であるが、彼女が芥川賞を受賞されたことは妥当だと漠然と思うようになった。

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