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2008年4月 5日 (土)

日本の工芸品の海外への流出

最近、鎌倉時代の仏師・運慶作の「大日如来坐像」が、ニューヨークのオークションで三越を通じて宗教法人「真如苑」が落札し、日本の誇る文化財の流出が防がれたというニュースを聞いた。

日本からの工芸品の流出は今に始まったものではない。我々日本人は国宝級の工芸品が海外へ流出するのを嘆く傾向にある。

先日、ドナルド・キーン「果てしなく美しい日本」を読んでいると、日本工芸品の海外流出に関して述べていることが興味深い。ドナルド・キーン氏は日本文学の研究者で広く日本文化を海外に紹介されている方である。

同書の中で、日本の工芸品の海外流出が日本文化を世界に広める大きな役目を果たしたと肯定的な側面も述べている。なるほどと感じた。

以下は、ドナルド・キーン氏が述べていることで、同書からの引用である:

 日本人は日本の国宝級のものが外国に流出したことを嘆いています。日本の素晴らしいものが外国へ流れていったことを、大変残念に思うような日本人がいますが、私に言わせると、流出は大変いいことだったと思います。というのは、もし日本の優れた美術が全部日本だけにしかなく、外国に日本の美術として二流、三流のものしかなければ、日本美術を正しく評価することは全く不可能だったろうと思うからです。

 もうひとつ、当時(注1)の外国人の観光客、日本に来た人達は買いたい、買いたくないにかかわらず、どうしても買わなければならない羽目になったということがありました。当時の人々の日記を読むと、どこか日本の旅館に泊まると毎晩毎晩骨董屋さんが来るんです。骨董屋さんがぜひぜひ買って下さいと言うので、うるさい骨董屋さんを帰すために、欲しくないものでも買いました。それが国宝だったというわけで、特別に国宝を狙っていたわけじゃないのです。

 外国に流れたもので一番いいものは屏風でしよう。どうして屏風を買ったかというと、それは国宝だからじゃなくて、あるいは非常に美しいからじゃなくて、寒い風が入らないようにするために買ったのです。非常に単純な理由です。でも、そのおかげで日本文化の水準の高さが再び外国で認められるようになったんです。そして、日本のあらゆる芸術が外国で高く評価されるだけでなくて、ヨーロッパに大いに影響を与えるようになりました。

 ヨーロッパの19世紀の画家(注2)で日本の浮世絵の影響を受けなかった人は、殆どいなかったと思います。パリの近代美術館に行きますと、各画家の部屋があって、その中に、アトリエにあったような道具とか、物が置いてありますが、全ての画家のアトリエに浮世絵があったということがわかります。浮世絵はヨーロッパの芸術家に大きな影響を与えました。革命的な影響ともいえるでしよう。

筆者注記:
注1:明治新政府が発した神仏分離令によって、神道を重視し仏教の全てを否定する
   愚かな「廃仏毀釈」が惹き起こされ、多くの寺院や仏像が破壊され、そして多数の
   仏教関係の工芸品が流出した。当時とはこの頃のことをいっているものと
   思われる。

注2:安藤広重、葛飾北斎などが、マネ、モネ、セザンヌ、ゴッホ等の画法に大きな
       影響を与えた。

     参考:筆者の過去の記事「浮世絵とフランス画家モネ」

著者HPhttp://homepage3.nifty.com/yagikeieioffice/

   

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コメント

八木さんのここでの視点、私もドナルド・キーン博士のおっしゃるところ大きいと思ってます。

そして、同時に、日本の美術工芸品への日本人の思い入れや、自分たちの卓越性の本質なるところに気づいていない「日本人」のことを嘆いています。

で、自分たちの工芸品や美術品、はたまた遺跡や壁画なんてものをきっちりと保存できない事件がいっぱい起こりますよね。

そして、海外での日本の工芸品・美術品が大切に保管されている姿を見るにつけ、きっと海外で保存されるほうが、いつか日本人の存在意義や価値が現実に失われたとしても、形あるものとして残るかも・・・なんて皮肉に思ったりしています。

POWER-NLPではこの日本人の卓越性に目覚めて、世界にその存在意義を示して行こうよ!って気持ちでプログラムを創り、セミナーを開催していますが、なかなかこういう志はウケないのが今の「物質欲や、自己重要感」に焦点のあったた日本の現実ですかね~。

ちょっと愚痴っぽくなりました(笑)。

投稿: かよりんコーチ | 2008年4月 5日 (土) 20時07分

かよりんコーチ様

コーチングの視点から日本人のアイデンティティというものを意識させ、更に日本人の卓越性に目覚めてもらうという試みはいいですね。ただ、かよりんさんの言われるように、次世代を担う若い人達の基本的な意識レベルが、家庭教育や学校教育の不十分さ故に低いので、これを補っていくことが求められるのでしようね。
             八木

投稿: 八木 | 2008年4月 6日 (日) 18時28分

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