企業存続のヒント・近江商人の智恵
◆最近、不祥事により社会的信用をなくし、社会から消えていく企業が後を絶たないが、このようなことを避けるには、どのようにすればよいのか? と考えるこの頃である。
◆そのヒントらしいものが、末永國紀著「近江商人」(現代を生き抜くビジネスの指針)にあった。
以下は、その書籍からの引用である・・・・・・・
=========================
・全国を商圏とし、天秤棒を担いだ一介の商人から豪商へと成長した近江商人の到達した境地や、会得した極意にふれるには、その遺言こそふさわしい。また、近江商人の
体験の真髄は、成分化された家訓・店則のなかに盛り込まれていることがあり、何気なく伝えられた座談や覚書、書簡等の文言からも汲み取ることができる。
という前書きがあり、下記に続く内容が述べられている(一部抜粋)
★天秤棒精神:
もっぱら天秤棒を担いでいた小商人の段階にあった近江商人が、どのような心構えで
いたのか、ということを追憶談として語ったものに、丁吟の初代小林吟右衛門の述懐が
ある。この述懐は、安政元年7月に78歳で没した吟右衛門が亡くなる4ヶ月前に述べた
ものである。
「たとえ天秤棒を担いだ小商人といえども、自分のことばかりでなく、世の中の一員としての自覚を持って、不義理や迷惑をかけないように絶えず周囲や世間の人々のこと を
思いやりながら、労苦を厭わず懸命に働けば、立派に商人として認められ、やがて相当の身代を築くことができるものである・・・・・(中略)・・・・始めから欲にかられて大金を願望しても、無駄であり何の益にもならない」
成功後の述懐といえ、この挿話は、近江商人が小商人の段階からすでに社会の一員としての自覚を持って活動する重要性をわきまえていたことを伝えている。
★近江商人・中村治兵衛宗岸は、晩年、妻と息子に先立たれが、継がせた養嗣子の
宗次郎へ次のような書置をしたためている。
「他国へ麻布などの行商へ出かけるときは、気分よく商品を購入活用してもらうために、まずその土地の人々のことを大切に考えること、自分のことばかり計算して高利を望む
ようなことをしてはならない。日頃から神仏への信心を厚くして欲心を抑え、行商のために他国へ入国する際には、たえず相手のことを思いやる志を持つことが第一で あ る」
この書置は、持下り行商の心得を説き、近江商人の商行為の精髄である「三方よし」の
理念の原点となった条文である。
★正直な利益と押込め隠居
近江商人・初代中井源左衛門は、勤勉と禁欲を自分に課し、万物の流通調整を通して、社会に貢献したことによって得られた利益は正当な利益であるという信念を持っていた。
これは他の近江商人についても同様であり、従って、このような商人の本分をわきまえず、正当な利益を積み上げて築かれた家産を危うくするような、善人にあらざる行為が
当主にあったと判断された場合は、押込め隠居の手続きをとって、後見人や親族が当主を強制的に隠居させることが家訓でも認められていたし、実際に発動された。
このように、主人を押込め隠居にする大手術が実行されたことは、積み上げられてきた家産は当主が私物として蕩尽してよいものではなく、一種の法人財産視する考え方を
生じていたとの解釈を可能とする。これも江戸時代以来の老舗が、近代企業へ転化しえた一つの要因であろう、と著者の末永國紀氏は述べている。
======================
◆ところで、船場吉兆が廃業に追い込まれた。
大阪の誇る老舗がなくなっていくことは淋しい限りである。
吉兆の創業は1930年であるから、歴史はそんなに古くはない。老舗と呼ぶにはまだ早いかもしれない。しかし3回にわたって東京サミットで利用され名声を得た。
吉兆の創業者は湯木貞一氏。1991年に事業承継の結果、5社に分かれた。
2007年、その内の一社である船場吉兆が不祥事(賞味期限・産地偽装)を起こし、民事再生法の適用を申請中であったが、最後には料理の使い回しで致命的な傷を負った。
私が思うには、このような事態になった原因は、ひとつには事業の分離が5社にも及び
創業者の遺訓が充分に伝わらなかったこと、もうひとつは、当主の権限が絶対的であり
その独断専行に意見を述べる人間がいなかったことに、尽きるのではないかと・・・・
近江商人の築き上げた「天秤棒精神」や「三方よしの精神」更には「押込め隠居制度」な どが存在していたら、このような事態は避けられたと思うのである。
by yagiyoshiaki:http://homepage3.nifty.com/yagikeieioffice/
| 固定リンク
「1.経営」カテゴリの記事
- 働かせ?法案:高度プロフェショナル制度(2018.06.29)
- 不誠実な政権(2018.05.24)
- “世界で一番貧しい大統領” ホセ・ムヒカ さん →この方と比べると日本の現状は淋しい限りです!(2018.03.03)
- マザーハウス・なんばパークス店訪問(2018.01.25)
- 明石順平著「アベノミクスによろしく」...(2017.12.20)
コメント