« 平山郁夫さんを悼む | トップページ | “ぐるなび”における事業躍進の背景 »

2009年12月 5日 (土)

我が国における高い不確実性回避文化

先日、NPO法人プラスチック人材アタッセ主催で経営セミナーが開催され、講師の一人として講演した。タイトルは「QC的モノの見方・考え方(現状と将来)」。この中で我が国の品質管理が直面する問題について、次のようなことに言及させて頂いた。

============================
オランダのG.ホフステードは、その著「多文化世界」の中で、国の文化と経営について次の様に述べている。

①いくらグローバル化が進展し、インターネット等の新技術が出現しても、国の文化はなかなか収斂するものでない。②企業経営に関する多くの理論や手法は、それが考案された国の文化のもとで有効であっても、異なる文化特性を持つ国では、有効であり得ないことが多い。③従って、優良企業への道は、決して一つでない。

上記は含蓄のある言葉であり、欧米からの様々な経営手法が我が国に導入されたが、我が国に根付いて定着したものは、それらの中の極めて僅かなものであったことからも、なるほどと頷ける。

そして、ホフステードは次のような文化の4次元を提唱している。
①権力格差:部下の上司への依存の度合い、②個人主義対集団主義:個人主義の集団主義に対する相対的強さ、 ③男らしさ対女らしさ:男女の役割が明確かあるいは重なり合っているか、④不確実性回避:曖昧さに対してどれだけか寛容か、逆に脅威、不安を感じる程度、

我が国は、世界の国々との比較において、権力格差、個人主義は中位で、男らしさ、不確実性回避は強い。特に不確実性回避の文化は首位を占めている。圓川隆夫氏はその著「我が国文化と品質」の中で、この高不確実性文化が日本の産業に大きな影響を与えていると指摘している。

この高不確実性回避を特徴づけるものの1つとして、精密さと規則正しさが自然に身に
つくという特徴が挙げられる。精密さや規則正しさを阻害する“あいまいさ”を嫌う文化である。これが我が国の高品質や高信頼性及び納期厳守などの組織的改善努力が生み出された源泉である。

一方で、ホフステードは、この特徴をもつものは、あいまいさに寛容であることが要求される経営戦略上の問題解決が不得意であると指摘している。また、この特徴をもつ国の消費者は、総じてCS値(顧客満足度)が低いと指摘している。

従ってこの高不確実性回避文化には良い面と好ましくない面がある。良い面は、細やかな改善を継続的にやってきた結果として、不良ゼロや納期短縮などを達成してきたということである。好ましくない面は、食に代表されるように、我が国だけだと思われる過剰ともいえる安全・安心への対応である。これにより高品質・高信頼性の副作用ともいえる現象や高コスト体制を招いて来たといえる。

また携帯電話がその典型であるが、要求が厳しい我が国消費者が支えた高品質・高機能を日本の中だけで進化させ、競争を激化させている一方で、世界では“そこそこ”の機能で低価格がスタンダード化し、我が国企業は世界の競争から取り残されてしまったということである。また、我が国は総じて急激な経営環境の変化に対するマネジメント力が弱いということである。

上記の好ましくない面を是正するためには、
費用対効果を追求した実質安全という考え方で、国、メーカー、消費者のコンセンサスに基づくモノづくりを検討する、携帯電話に代表されるような高品質・高機能の行き過ぎに対しては、今後広く世界的な製品に変えていくために、グローバルな市場性を把握したマーケティング戦略を検討する、また、強い現場だけに依存するだけでなく、企業全般を見据えての戦略的な思考を行うようにする、等が必要となる。

by 八木: http://homepage3.nifty.com/yagikeieioffice/

|

« 平山郁夫さんを悼む | トップページ | “ぐるなび”における事業躍進の背景 »

1.経営」カテゴリの記事

コメント

いつも、興味深いテーマの発信を楽しみに拝見しています。

「この特徴をもつものは、あいまいさに寛容であることが要求される経営戦略上の問題解決が不得意であると指摘していいる。」
なるほど、そうなんですね。

以前、家電製品や衣料品について、日本の品質に対するこだわりが世界では異質であることを、業界の方から聞いたことがあります。

グローバル化が進んでも、経営手法の定着が国の文化と密接に関係するっていうことは、しっかり認識しておきたいと思います。

投稿: きたぐちゆきこ | 2009年12月 6日 (日) 21時22分

北口さん。コメントありがとうございます。
日本における改善活動を地道に進める企業の風土は大切にすべきなのですが、独善的になるのではなく、世界の動きに対しても、もう少し注意を払わなければならないという気持で、このブログを書きました。

投稿: やぎ | 2009年12月 6日 (日) 22時13分

興味深いですねぇ。ただ、下のグラフを見たところ、


http://www.geert-hofstede.com/
http://www.geert-hofstede.com/hofstede_dimensions.php


心配なのは、日本の不確実性回避が極端に高く、他の西洋圏の先進国とは乖離していることですね。ちなみに、アメリカは低いようです。
精密な器機を製造したり、細かい点まで気が回るという背景には、日本人として美徳を感じますが、不確実なことを回避、排除するということは、遊びや冒険心がなく、固定的、あるいは閉塞的になってしまう危険性があり、イノベーション、多様性、流動性に対して寛容ではなく、不測の事態に弱い、マニュアル的ともとれる気がします。日本企業がグローバルに世界の企業と渡り合うには、その辺の改善が必要な気がします。

投稿: sgn | 2010年1月14日 (木) 08時20分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 我が国における高い不確実性回避文化:

« 平山郁夫さんを悼む | トップページ | “ぐるなび”における事業躍進の背景 »