ブンガワン・ソロ・・・インドネシアで聞いた懐かしい曲
まだ30代の中頃、インドネシアのジャカルタに仕事で長期間滞在していた時、ホテルのラウンジで良く聴いた曲がある。ブンガワン・ソロだ。実はこの曲、私の父もよく歌っていた記憶があるので、直ぐに親しみを覚えた。南国を思わせるメロディーの中に哀愁を感じさせるものがあった。
ラウンジで歌っていたのはインドネシアの女性歌手。一緒にジャカルタに滞在していた先輩のYさんとはよくラウンジに行き彼女の歌を聴くのが楽しみであった。彼女が歌うブンガワン・ソロのカセットは今でも大切に保管している。その後、この先輩が早く亡くなったので、尚一層、一緒にジャカルタに滞在していたその時のことが思い出される。彼女と馴染みになっていた我々は、彼女に頼んで飛び入りで舞台に上がらせてもらい、日本の歌を紹介するなどして楽しんだ。一人が日本語で歌いながら、他方は英語で翻訳するなどのようなこともした。楽しい思い出であった。
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さて、先日、朝日新聞のbe on Saturdayの「歌の旅人」欄にブンガワン・ソロの記事が掲載されていたので、懐かしい思いで読んだ。
実はこの曲、日本では長い間、作者不詳のインドネシア民謡だとされてきたが、実はインドネシア生まれのポピュラー音楽「クロンチョン」の歌手だったグサン・マルトハルトノさん(1917~)が1940年に作詞作曲したものだ。この曲は当時、世界最先端のポピュラー音楽であった。インドネシアの「クロンチョン」の中に、米国の最新の流行歌の要素を織り混ぜていたという。クロンチョンは米国のジャズやアルゼンチンのタンゴより古い歴史を持ち、最古のポピュラー音楽とも言われ、ポルトガルからの移民が16世紀頃に生んだポピュラー音楽らしい。道理でポルトガルのファドと良く似ていて哀愁を帯びた音楽だ。
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この曲ができた1940年は、インドネシアという国はなく、オランダ領「東インド」であった。そしてオランダに代わって「大東亜共栄圏」を掲げる日本軍が1942年に進出すると、敵国欧米の音楽は禁止され、日本の歌と共にクロンチョンが推奨された。グサン・マルトハルトノさんも日本軍の依頼でよく歌わされたという。その旋律は、言葉のわからない日本兵の心を癒した。
終戦から2年後の1947年、ブンガワン・ソロのレコードが日本で発売された。インドネシアで聞き覚えた復員兵達の需要も見込まれた。自ら日本語の詞をつけて歌ったのはソプラノ歌手・松田トシさんだった。
松田さんもこの曲がジャワ島などの民謡だと思っていた。しかし時を経て、産経新聞のジャカルタ特派員だった加藤裕さんがグサンさんの存在を知り、1980年、冬の北海道・札幌の雪祭りの会場にグサンさんを招待し、ブンガワン・ソロを歌ってもらった。その姿はテレビ中継され、あの戦後の名曲に生みの親がいたということが日本全国に知れ渡ったという(私は今回のこの朝日新聞の記事を読むまではそういうことは知らなかったので驚きであった)。
============================= オリジナルのブンガワン・ソロはジャワ島を流れる大河・ソロ川の自然を称えた歌である。日本では松田トシさんが、次のような歌詞をつけて自ら歌った。
ブンガワン・ソロ 果てしなき/清き流れに 今日も祈らん/ブンガワン・ソロ 夢淡き /幸の日たたえ 共に歌わん/聖なる河よ 我が心の母/祈りの歌に乗せ 流れ越える/花は咲き 花は散れど/愛の誓いは 永久に 変わらじ・・・・(写真はソロ川をゆく渡し舟)
ネットで検索していると松田トシさんが歌っている曲が見つかった。聴いてみたが改めて素晴らしい曲だと思った。YouTube「ブンガワン・ソロ(松田トシ」をお聴き下さい。
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コメント
インドネシアの癒しの曲を探していて
たどり着きました。
「ブンガワンソロ」のCD、持っています。
残念ながら、ソロ川は清き流れではなかったです。笑
投稿: hanachan | 2010年11月25日 (木) 11時54分
コメントありがとうございます。
インドネシアでの思い出は遥か昔になりましたが、今でもブンガワソソロを聴いた時のホテルでの様子を思い浮かべることができます。
想いで日記を拝見しました。今まで見たことのない美しいブログです。これから時々のぞかせて頂きます。
投稿: やぎ | 2010年11月25日 (木) 14時30分