民主主義が人文学や芸術を必要とする理由
マーサ・ヌスバウム(Martha C. Nussbaum)さん(69歳)、という人がいます。彼女は、社会的弱者に目を向けた独自の正義論を提唱する哲学者でアメリカ・シカゴ大学の教授です。知らない人が多いと思いますが、昨年には京都賞(稲盛財団主催)を受賞しています。
彼女はその著「Not for Profit、Why Democracy Needs the Humanities(日本書名:経済成長がすべてか?~デモクラシーが人文学を必要とする理由~」の中で次のようなことを述べています。
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「経済的には繁栄しているものの、民主主義のない国に住みたいと思う人がいるだろうか?・・・諸国家は、国益を追求するあまり、(技術教育を重視し)、民主主義の存続に必要な技能を放棄している。すなわち、芸術や人文学(哲学、歴史、文化、文学などのこと)が至る所で削減されているゆえに、民主主義にまさに必要不可欠な諸価値が深刻な損害をこうむっている」と。
彼女の主張は、人文学や芸術は、「批判的な思考能力」や「人に共感する能力」を人間に与えるには欠かせないもので、健全な民主主義の発展には不可欠なものであるということである。もっともなことです。
また、次のようなことを述べています。「タゴール(インドの哲学者)が言ったように、攻撃的ナショナリズムは、道徳的良心を鈍磨させることを必要とする。・・・個人というものを認めず、集団の名の下に喋り、従順な官僚のように行動する人間を必要としているのです」
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このことはまさに、我が国のことについて言っているように思われてなりません。文部科学省による大学教育における人文系学問の軽視の傾向についてはご存じの通りです。そして、右翼国家主義的色彩の濃い安倍政権下での森友学園や加計学園、共謀罪法などに関連した政府の答弁を聞いていると、
「言い包めや詭弁に慣れていつの間にか嘘に麻痺する症状怖し」というような短歌を読みたくなってきます。
最近の唯一の救いは、前川前文科次官の正義感に基づいた真実の告白です。辞めてから言うなという批判もありますが、これはおかしなことです。今の政治は「安部一強」で自民党内でも異論があっても表に出ない状態です。まさに「物言えば唇寒し」の状況です。こんな状態を生み出した当事者が、このように前川さんを非難するのは筋違いです。それにしても、日本に何とかかつての明るさが戻って欲しいものです。
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